誠実な味のする、りんごがあります。

誠実な味のする、りんごがあります。

青森でりんごの有機栽培に挑戦する、三上さんのお話
誠実な味のする、りんごがあります。 生産者:三上豊勝さん
場所:青森県中津軽郡岩木町
今年の出来は上々です、と三上さん。
日本一のりんごの産地、青森は岩木山のふもとに、ナチュラルハウスにりんごを届けてくれる三上さんの畑はある。三上さんはこのあたりの集落では最も古いりんご農家の三代目。父の代までは慣行農業を行っていたが、自分の代になって有機栽培に切り替えた。それは大きなチャレンジだった。

一冊の本との出合い

今から30年以上も前の話だ。
農学校に行かなかった三上さんは、段ボール箱いっぱいに農業の本を取り寄せ独学していたという。そんなある日、箱の中に入っていた一冊の本に出会う。それは有機農法を紹介する海外からの翻訳本だった。

「初めてこれを読んだ時、こういう農業のスタイルがあったのか、と。それはものすごい感動でした。」

まさに目から鱗とはこのことだったのだろう。農業がさかんなこの土地で育ち、誰よりもそれを身近に感じながら暮らしてきたはずの三上さんだったが、当時、農を自然の循環の中でとらえ、地球環境まで見据えた考え方をする人はいなく、そんな情報も皆無だった。三上さんは今も大切にとってあるその最初の本を出して見せてくれた。『有機農法〜自然循環とよみがえる生命〜』。それはまったく新しい価値観との出会いだった。

誠実な味のする、りんごがあります。 きちんとカバーをかけられて、
その本は今も大切にとってある。

想いだけを味方に

衝撃を受けた三上さんは、生来の勉強好きも手伝って、その後有機農業の本を読み漁り、すぐさま実践に移した。まず本に出ていたマニュアル通りに堆肥を15トン作ってみた。半信半疑だった。するとうまく出来た。

「これはひょっとすると、本に書いてあるような農薬を使わない世界も夢じゃないかもしれない、と思いましてねえ、さっそくその翌年から大々的に堆肥を作り、りんご畑に還元していったんです。年々堆肥の割合を増やしてはその分の化成肥料を減らすという風にね、徐々に移行していった。8年後かかってやっと、完全に化成肥料を脱することができたんです。」

あせらず、でも確実に。三上さんは憧れた本の世界に近づいていった。それから次は、農薬の使用を減らす過程に入っていった。肥料に比べ、農薬を減らす作業は難しかった。完全に農薬や化成肥料を使わないで栽培する自然農法に挑戦し、農薬の代わりにお酢と焼酎を使ってみると、苦味の強いりんごができてしまった。木が病害にやられ、葉っぱがすべて黄色になって落ちてしまった年もある。「きれいな黄金の畑になってしまってねえ、近所の人が見に来るほどの騒ぎになったんですよ」と奥さんは昔を想いだして苦笑いするが、当時の苦労は計り知れない。専業農家はその年の収穫量が直接暮らしに響く。稼ぎ頭のフジやスターキングが全滅した年などは、奥さんが親戚の畑の手伝いなどに出て家計を助けたこともあったという。「そんな調子でしたからねえ、近所ではもう、あそこは頭がおかしくなったと言われて。完全に変わり者扱いですよ。」

誠実な味のする、りんごがあります。どんな時も、おてんとさまは平等にふりそそぐ

農家の人が慣行農業から有機栽培に移行しようとするとき、大きな障壁がふたつある。

ひとつは病気や害虫といった自然界の壁、そしてもうひとつは人の壁である。たとえ身内であってもこれまで慣行農業を善しとしてきた人からは理解を得るのが難しいし、しかもそこが特産地であったらなおさらだ。三上さんが有機栽培に取り組み始めた約30年前といえば、ガイドラインや有機JAS認定ができるずっと前の話。時代はまだまだ三上さんの考えに追いついていなく、まわりでは有機栽培に興味を持つ人すら皆無。そんな中で三上さん自分の直感だけを信じ、たったひとりで有機栽培に取り組んだのだった。

それから約30年。現在でも約1万9千戸あると言われる青森のりんご農家の中で、有機栽培に成功しているのは三上さんとあと数人いるかいないかという程度。いかにりんごの有機栽培が技術的に困難で、社会的にも浸透していないということがよくわかる。

誠実な味のする、りんごがあります。 誠実な味のする、りんごがあります。
三上さんの愛情に応える様に、たわわになったりんごの木 下草の生えたりんご畑には、ちいさな生き物がたくさん息づく

点から線へ

手間がかかり、常に病害虫に対するリスクがつきまとう有機栽培は、食の安全と環境に対するゆるぎない信念と情熱がなければできない仕事である。近年三上さんのところには、同じ志を持つ人々がアドバイスを求めに訪れてくる。県庁などに呼ばれて話をすることもある。しかし有機栽培のハードルは高く、特別栽培(※)までは出来ても、その先には進めないという。なぜ三上さんは成功したのだろうか。

「やっぱりばかみたいにがむしゃらにやったからですよ。自分で失敗し、発見しながら編み出していく。自然相手の仕事にマニュアルはないんです。」体験から生み出された言葉には重みがある。自然を読み、自分の経験を重ね合わせその都度判断していく仕事。マニュアルがあふれ、汗をかかずに結果が得られることに慣れてしまった今の時代、三上さんのような仕事のやり方は一般的でないのかもしれない。しかしそれに共感し、誠実なもの作りに挑戦する人は全国に確実に増えている。今はまだ点のような存在だけれど、いつかそれが線になることを三上さんは願っている。そしてその線がつながるか否かは、わたしたち消費者の日々の選択にかかっている。

※特別栽培農産物
その地域の慣行栽培より、農薬や化学肥料の両方について50%以下の使用で栽培された農産物のこと。(農林水産省HPより)

三上さんのこだわり(1) もみがら堆肥

誠実な味のする、りんごがあります。 もみがら、魚カス、石灰、ヨウリンを混ぜ、約9ヶ月間発酵させて寝かしたものを使っている。その場所も農薬の飛んでこない所を考慮している。

三上さんのこだわり(2) 手間ひま

誠実な味のする、りんごがあります。 まんべんなく陽が当たるように、ひとつひとつりんごの角度を変えてあげる。
病気に対する抵抗力をつけさせるため、実をならすのは一本の木に対して8割にとどめている。そのため、花の状態で摘んだり、摘果※(りんごの場合5〜6果ある中で真ん中の果実を残し、残りの果実を摘み取ること)を手作業でひとつひとつ丁寧におこなっている。一般的にはこの摘果の作業を軽減させるために、ミクロデナポンという劇物が摘果材として使用されている。また、除草剤も一切使用していないため、年に4回は草刈りを行っている。三上さんのりんごの木の下にはバッタや昆虫がいっぱい。一歩歩くごとに、ぴょんぴょんと飛び出してきて、自然の生態系と共存していることが実感できる。
文と写真:山田 愛(ナチュラルハウス編集)
取材:2006年9月28日
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