田んぼから始まる、いのちの循環

田んぼから始まる、いのちの循環

庄内で有機米づくりに取り組む、佐藤さんのお話
田んぼから始まる、いのちの循環 生産者:佐藤秀雄
場所:山形県酒田市 
←米づくり30年の佐藤さん。とびっきりの笑顔
山形県酒田。米どころとして知られる庄内平野のただ中に、佐藤さんの田んぼはある。訪れた9月下旬はまさに収穫シーズン。たわわに実った稲穂が頭を垂れて、風にそよそよと揺れていた。
佐藤さんはこの地で7.5ヘクタールもの田んぼで農薬や有機肥料さえも使わない米栽培を行っている。規模だけとっても普通(慣行栽培)の田んぼの2倍もの広さ。それを全て有機栽培しているというから驚きだ。収量は10アール当たりおよそ7表。肥料をたっぷり加える慣行栽培が10〜11表だということを考えると決して多くはないが、田んぼに負担をかけず土の力に任せた栽培を考えれば、これくらいの収量が自然本来の姿ということなのだろう。その証拠にここの稲穂は雑草にも負けず、しっかりとした根を持ち、とても健康だという。
「みんな不思議がって見にくるんですよ。何か特別なことをやっているんだろう、って。でも農薬は28年前から使っていないし、ここ3年は有機肥料すら入れるのをやめた。それでも十分な実りがある。それで行き着いたんです。とんぼ、なんだって。」
え、とんぼ?その意味がよく飲み込めないでいる私を見て、佐藤さんはゆっくりと語り始めた。
佐藤さんの家は270年前から続く米農家。米どころの庄内平野でもとびっきりの老舗だ。田んぼに囲まれたどっしりとした風格のある家からもその歴史は感じ取れる。その家に婿養子としてやってきて、有機農法による米作りを始めたのが28年前。
「有機だって決めて、最初は21アールの田んぼから出発したんですよ。でも販路が見いだせなくてねえ。買ってくれるのは東京のお医者さんくらい。いやあ、困りましたよ。まわりからは完全に変わりもん扱いされてね。」
田んぼから始まる、いのちの循環
↑あたり一面が黄金色に覆われる
田んぼから始まる、いのちの循環
↑畦道には、可憐な野の花が咲き乱れる
化学肥料や農薬が礼賛される時代、有機に対する世間の風当たりは決してやさしくはなかった。しかも米作りの産地で農協にも属さずたったひとりでやっていくには、それ相応の覚悟がいる。不安、迷い。でも収入とは半比例するように、佐藤さんは有機農業を通じて自然界の仕組みがわかっていく面白さにはまっていった。
生来の人柄の良さ、そして何より「量よりも、いいものを作りたい」と必死に取り組む佐藤さんの想いが伝わったのだろう、間もなくして地元で支持してくれる人が現れた。しかし全面積を有機栽培に切り替えるまで、15年の月日がかかった。試行錯誤の末、今では全てのお米が売り切れるまでなったが、そこまで、ずっと佐藤さんを支えていたのは、座禅を通じて学んだひとつの価値観だった。

湿地帯としての田んぼ作り

田んぼから始まる、いのちの循環
↑小さないのちの営みにも目をとめて

昔は家族総出で田植えをする姿が見られたこの地域も、大型機械や農薬、化学肥料が普及するにつれ、いつしかその風景は様変わりしてしまった。田んぼにいなくなったのは、人だけではなかった。そこに宿っていた様々ないのちも消えていった。ミジンコがいなくなり、ヤゴがいなくなる。とんぼがいなくなると、それを食べるツバメもいなくなった。案山子のいない田んぼが当たり前になった。完全だった自然界のバランスが崩れている。
有機農法を試行錯誤する中で佐藤さんが行き着いたのは、規模を大きくすることでも収量を上げることでもなく、田んぼから始まるいのちの循環の復活だった。
「田んぼを単なる食料を生み出す場として捉えるのではなく、湿地帯として見るんです。湿地帯がないと森が機能しないし、森が機能しないと海が豊かになれない。湿地帯、森、海が一体となって自然を形成している。自然はひとつのいのちだから、田んぼを健康にすることが、地球の環境問題にまでつながっているっていうことを実感したんです。湿地帯の王様はとんぼでしょ。だからとんぼが飛び立つような田んぼ作りだと。」

田んぼから世界を考える

田んぼから始まる、いのちの循環
↑小さないのちの営みにも目をとめて

「とんぼが飛び立つ田んぼをつくるには、土を健康にすること。もっと突き詰めていくと土壌微生物のバランスを、自然の状態まで整えてあげることなんです。それさえできたら、あとは何もいらない。肥料だっていらないんです。肥料を入れてしまうと、それを分解しようとして特定の微生物が急激に増えてしまう。そうなるとバランスが崩れてしまうんですね。ひとつのパイに住める微生物の量は決まっていますから。いろんな種類の微生物が住み、絶妙にバランスを保っているのが自然界なんです。僕が今やっているのは、人間が手を入れて狂わせてしまった自然界のバランスを取り戻す手伝い。その副産物としてお米を頂いている、そういう気持ちですよ。でもここまでたどりつくのに約30年間かかった。自然界の状態に近づけるにはミネラルが必要だと思って塩を入れたり、米ぬかと豚糞をペレットにしたものを散布したりね。冬水田んぼもやった。でも自然界とはもともと最小のエネルギーで最大の効果を生み出すようにできている。腐植物質の一種であるフルボ酸も研究が進んできて、少しづつその世界が解明されてきた。自然界はそのままで完璧なバランスを保っていたんですよ。」
微生物の話から地球環境の話へ。佐藤さんの視点はミクロとマクロの世界を縦横無尽に飛び交っている。
「でも結局は、ハートだね。頭じゃなく、心で理解すること。」
佐藤さんはそういって笑う。今、佐藤さんの田んぼの作業は、田植えと初期の草取りの他には、微生物の動きを活発にするために土を攪拌して酸素をいれる程度だという。
「土がいいから稲の根の張り方が違う。少しくらいの草には負けない強い稲ができて、実もたっぷりつくんです。」自然からのおすそわけ。そんな謙虚な姿勢が豊かな実りをもたらす。

田んぼから始まる、いのちの循環↑たわわに実った稲穂に、感謝の気持ちがわきおこる

今年、佐藤さんの田んぼからは200万ものトンボが飛び立ち森へ向かった。それは一時、空を真っ黒に染めるほどだったという。それを食べにツバメがやってきた。そのフンは土に帰り、木や微生物の栄養になるだろう。そしてまた、そこから次のいのちが生まれる。米作りから、自然というひとつの大きないのちの循環が見える。オーガニックは単なる農法の問題ではないんです。そう佐藤さんは言った。佐藤さんのお米を通じて、わたしたちもその世界へ少しだけ近づいていく 。

NH 有機栽培 山形県産コシヒカリ白米 5kg / 4,410円(税込)

山形県飽海郡平田町 佐藤秀雄さんの18年度産有機栽培コシヒカリです。充分に発酵させた完全堆肥と有機質肥料により、土の命を育てる事から始まります。適正な深耕、排水等、その土地にあった工夫で根から力強く育て、化学農薬散布も行わずに健全に育てた美味しいお米です。
※お届けに1週間から10日ほどお時間を頂く場合がございます。

オンラインショップで佐藤秀雄さんが会長を務める「みずほ生産者グループ」のお米が買えます

取材:2006年9月29日
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