ナチュラルハウス

青山コラム

2023年03月1日

抗生物質

【抗生物質】

引用:Horizon Farm

 

食と健康に関心のある方であれば、ご自身のライフスタイルだけでなく、環境や動物福祉にも考慮して、より健康的な食品を選びたいという気持ちがあるのではないでしょうか?

そうした中、抗生物質を投与された動物たちの食肉の安全性や環境に対する影響を心配する声も少なくありません。

 

抗生物質とは何ですか?

抗生物質とはバクテリアなどの細菌の感染を止める、または抑える医薬品です。厳密には細菌を殺す、または増殖を止めることで体内での感染拡大を止めます。抗生物質はその名の通り「生」物に抵「抗」する物質です。つまり、細菌を殺す性質を持つ薬は全て抗生物質であるといえます。1

 

抗生物質が家畜に投与される理由はなぜですか?

動物たちに抗生物質が投与される理由は2つあります。それは病気になった動物の治療目的と病気の予防を目的としたものになります。

 

理にかなった事だと思いますが、何が問題なのでしょうか?

病気にかかってしまった動物たちの治療目的で抗生物質を投与することは、農場にとっても動物福祉の観点からも大切な事です。この場合、獣医師の処方により使用されます。問題なのは病気になっていないにも関わらず、予防を目的とした抗生物質の投与にあります。予防を目的とした場合、投与する抗生物質の量は通常の治療目的よりも少ない量となり、専門用語で「プロフィラクティック (prophylactic) 」目的、または「サブセラピューティック (subtherapeutic) 」目的と言われたりもします。「サブセラピューティック」とは「治療以外」を意味し、「プロフィラクティック」は「予防」を意味します

 

抗生物質を予防目的で使う事の何が問題なのですか?

病気を防ぐ事を目的とした場合、病気になっていない動物に対して抗生物質を常に与え続けることになります。その結果、抗生物質の過剰投与となり、これが原因で抗生物質に耐性のあるバクテリアが生まれ、これが人の健康に害を及ぼす危険性があると危惧されています。

 

抗生物質に耐性のあるバクテリアとは?

抗生物質を投与しても生き延びるバクテリアが存在します。そして生き残ったバクテリアや菌は、次に同じ抗生物質が来た場合でも生き残れるように耐性を作るのです。つまり、抗生物質を使う度に弱いバイクテリアは死にますが、生き残った強いバクテリアがどんどん増殖します。このプロセスを繰り返せば繰り返すほど、それに耐えられる強いバクテリアのみが選別される形で生き残り、最終的にはどんな抗生物質にも耐えうるバクテリアとなってしまいます。こうしたバクテリアは「スーパーバグ」と言われます。

 

どの家畜に対して抗生物質が投与されますか?

卵や乳製品、食肉を含むすべての家畜に対して抗生物質は投与されます。

 

抗生物質の過剰投与による問題は畜産関係のみの事ですか?

いいえ。抗生物質の予防目的による過剰投与は人間界においても同じことが言えます。WHO(世界保健機関)では、医療業界に対して抗生物質の使用を最小限に留めるように注意を促しています。しかしながら多くの国において人口よりも家畜の数のほうが多いため、必然的に使用される抗生物質の量は畜産業界で使われる量の影響を大きく受けることとなります。

 

抗生物質に耐性のあるバクテリアは家畜から人間にも感染する可能性がありますか?

動物から人への感染リスクに関する証拠のほとんどが、人の健康を害する抗生物質に耐性のある病原性大腸菌やサルモネラ菌によるものだと言われています。しかしながら、こうした病原菌の人への感染経路は非常に複雑かつ科学的に追跡するのは難しい為、感染をピンポイントで突き止めるのは困難なのが現状です。

 

販売されている食肉には残留抗生物質は存在しますか?

先進国の多くにおいては、規制により食肉として加工される前に必ず休薬期間を設けるよう定められています。その為、食肉が販売される段階においては、抗生物質が食肉内に残っている事はありません。また、許可されている範囲内での投与を守って入れば、残留分の抗生物質が人間の健康に悪影響を及ぼすリスクは無いという関係機関による研究結果もあります。

 

WHO(世界保健機関)の抗生物質投与に関する見解はどのようなものですか?

WHO(世界保健機関)の見解は以下の通りです。

WHOは食品および畜産業界に対し、病気の予防を目的とした家畜に対する抗生物質の常習的な投与は行わない事を推奨しています。5

新しい抗生物質を発見するスピードよりも速いペースで耐性力のあるバクテリアが増えてきている6

耐性力のあるバクテリアに対抗できる抗生物質が少なくなってきている今、世界は昔のように細菌感染が死につながる世の中へと再び戻りつつある。7

 

抗生物質の投与が最も多い国はどこですか?

抗生物質を使うかどうかの判断は「国」ではなく「農場」が決めています。国は許可をするかしないかのみで、使用を強制しているわけではありません。

 

オーガニックのお肉には抗生物質は使われていませんか?

有機畜産物の基準では、予防目的の抗生物質の使用は禁止されています。4

 

家畜に対する抗生物質の使用は農場が決める事として法律で定められていますか?

いいえ。行政などの関係機関は、農場に対して抗生物質の使用量を下げるように強く推奨していますが、治療目的でも予防目的でも、抗生物質を使用するかどうかは「国」ではなく「農場」の判断によるものです。3

 

抗生物質の投与は動物福祉の観点ではどうなりますか?

病気になってしまった動物の治療の為に最終手段として、獣医師の処方により抗生物質を投与することは、動物福祉の観点でも適切であるとの考えで一致しています。しかしながら、家畜に対して使われている抗生物質の多くが、好ましくない飼育環境からくるストレスと免疫力低下による病気を予防する為のものであるのが現状です。ストレスなく伸び伸びと過ごせる飼育環境であれば、抗生物質による病気予防は必要ありません。伝統的な家族経営のような畜産方法においては、病気予防を目的とした抗生物質の投与は必要ありません。動物福祉を考慮した飼育環境で大切に育てていれば、家畜たちは病気になりにくいのです。

完全放牧で伸び伸びと過ごしている動物たちは、病気になりにくく、密集していないので病気になったとしても感染が拡大しにくい事があげられます。ストレスの溜まりやすい環境によって低下した免疫力を相殺するために抗生物質を投与することは、あってはならない事と考えております。

 

結局のところ私たちはどうすべきなのでしょうか?

抗生物質投与に関する問題は、食の安全と健康に関する答えと同様、様々な要因が絡んでいる事もあり、一概に「こうすべき!」とはなかなか行かないのが現状です。

消費者側からはこれまで以上に低価格の食肉を求める声が多くなり、それに答える為には高い生産効率を可能にする工場的、機械的に畜産を営む必要があります。それはつまり、1頭当たりの居住スペースを狭くするという飼育環境の悪化を意味します。悪化した飼育環境は病気を拡散する可能性を高めてしまう事につながります。その結果として病気の拡散を防ぐために抗生物質が投与されるのです。

また近年、「自然食品」や「オーガニック食品」に対する需要は増えてきておりますが、この「自然」という言葉の明確な定義は無く、あいまいで規制もないので多く使われるようになりました。利益を最重要視した手法でも「自然」という言葉が使えてしまう結果、伝統的な手法に則って畜産業を営んでいる小規模な農家の方々は苦境に立たされることになっています。

 

最後になりますが、この問題の最適解は消費者である「あなた」が決め、判断を下す必要があります。